M&Aで買い手が必ず確認すべき「労務債務」とは

― 企業価値を大きく左右する見えないリスクと社労士活用の重要性 ―

M&Aにおいて「労務デューデリジェンス」が重要な理由

M&Aでは、財務・税務・法務のデューデリジェンスは重視されますが、労務デューデリジェンス(労務DD) は軽視されがちな分野でもあります。

しかし、労務分野には次のような特徴があります。
・帳簿に載らない「簿外債務」が多い
・問題が表面化するのは買収後
・一度発覚すると修正が困難
・従業員トラブルは事業継続に直結する

買い手企業にとって、労務債務の見落としは
「想定していなかった損失」
「PMI(統合プロセス)の失敗」
「ブランド・信用の毀損」

につながる重大リスクとなります。

売り手企業にとっても日々の労務管理を怠っていると、いざ会社を売却する際、相乗以上に価値が下がってしまう可能性があります。

買い手が特に注意すべき「労務債務」とは

労務債務とは、すでに発生している、または将来発生する可能性のある労務に関する金銭的・法的負担を指します。

代表的な労務債務の例
① 未払い残業代
固定残業代の無効
管理監督者の誤認
サービス残業の常態化
→ 数年分さかのぼると数千万円規模になることもあります。

② 退職金債務
規程はあるが引当をしていない
買収後に一斉請求される可能性

③ 社会保険・労働保険の未加入・不足
未加入期間分の追徴
過去2年分以上の遡及請求

④ 労働条件の不整合
雇用契約書未締結
就業規則と実態の乖離
口頭合意のみの運用

⑤ 潜在的な労使トラブル
既に不満が蓄積している
退職予定者が訴訟を準備している
労基署調査が近い


これらは財務諸表からは読み取れません。

労務債務は企業価値にどの程度影響するのか

労務債務は、M&Aにおいて直接的に企業価値を下げる要因となります。

具体的な影響例
未払い残業代 3,000万円 → 企業価値▲3,000万円
社会保険未加入追徴 800万円 → 価格調整
労使紛争リスク → ディスカウント要因

さらに、
PMI遅延
優秀な従業員の退職
組織の混乱
風評リスク
といった 金額換算できない損失 も発生します。
実務上は、
「労務DDの結果で、買収価格が1~3割変動する」
ことも珍しくありません。

しかし労務デューデリをしっかり労務の専門家である社会保険労務士が実施していない場合には、評価額に債務が反映されていないまま買収することとなり、割高な状態で債務だけを引き受けることとなってしまう恐れもあるのです。

債務をしっかり見ておくことで、その分の価格交渉もできますし、場合によってはトラブル回避のためM&Aを中止する選択肢も出てきます。

一番怖いのは、知らないまま買い取ってしまうことです。

買い手がチェックすべき労務の重要ポイント

書類面
就業規則・各種規程
雇用契約書・労働条件通知書
勤怠管理資料
賃金台帳
残業時間データ
社会保険加入履歴


実態面
管理職の実態
サービス残業の有無
有給休暇の取得状況
ハラスメント相談履歴
退職理由の傾向


制度面
固定残業代制度の適法性
変形労働時間制の運用
評価制度・賃金制度の整合性

など多岐にわたります。

労務デューデリジェンスは社労士に依頼すべき理由

労務DDは単なる書類チェックではありません。
重要なのは、「この会社を買収した後に、どんな問題が起きるか」を予測することです。

社労士に依頼すべき理由
労働法・労災・社会保険の唯一の国家資格を持つ専門家であること。

実務運用の妥当性を判断できる
労使トラブル事例を多数把握している
未払い残業代等の試算が可能
PMIを見据えた改善提案ができる


会計士・弁護士のDDだけでは、
日常の運用の歪み・従業員の不満構造・将来の紛争リスク
までは把握できないケースが多いのが実情です。

最後にもう一点、買い手企業の方にぜひ知っておいていただきたい注意点があります。
M&Aでは、仲介業者やFA(ファイナンシャルアドバイザー)から
「デューデリジェンスもまとめて対応できます」
と案内されるケースがあります。
その場合、必ず次の点を確認してください。

「労務デューデリジェンスを、誰が実施するのか」
具体的には、
社会保険労務士が担当するのか
会計士・コンサルタントが簡易的に確認するだけなのか
外部専門家に委託されるのか
を明確にしておくことが重要です。

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